あかつきの道徳教材の歴史

昭和34年より道徳教育に資するための教材を発刊してきた
あかつき教育図書(旧・暁教育図書)。その歴史をご紹介します。

戦後教育の中で、むずかしい状況であり続けた道徳。昭和33年9月、道徳の時間が特設されたとき、戦前戦中の修身教育の復活であるという反対意見が渦巻きました。また、一方で道徳は「退屈なお説教」というイメージが授業者にも児童生徒にもあり、多くの学校で道徳の授業は実現されないまま長い時間が経過していきました。いま社会の中心的な立場で活躍する大人たちの大半は、学校での道徳の時間の記憶はほとんどないはずです。

あかつき教育図書(旧:暁教育図書)は、道徳が教育の現場で逆風にさらされる中も、昭和34年から、中学校の道徳教育に資するための教材を発刊してまいりました。平成元年の学習指導要領改訂を機に道徳副読本として大きくリニューアル。以後、たゆまぬ教材開発に努め、改訂を重ねてきました。そして、道徳の教科化にともない、平成30年度には小学校道徳教科書、平成31年度には中学校道徳教科書を発行。今日にいたるまで、道徳教育充実の一端を担ってまいりました。

  • 現行版の前身「生きがいのある生活」
  • 平成元年度版
  • 平成6年度版

あかつき教育図書の「読み物教材」

あかつき教育図書の道徳教科書は良質な教材を精選しています。
教師も一人の生身の人間として児童生徒に対峙する道徳の時間において、その仲介であり中心的な教材である「読み物教材」。当社の「読み物教材」は、授業のしやすさ、子どもたちの共感など、ご使用される先生方に高い評価をいただいています。

「読み物教材」は、子どもたちだけでなく、大人の心も揺さぶります。これは、中学校3年生の娘さんがいらっしゃるお母様の投稿です。『昨年娘から学年の終わりにプレゼントされました。いい本だからお母さん読んで、と手渡されました。内容的にはまさに「自分を考える」(注:中学生の道徳2年生副読本の書名)ですが、同時に他人のことも考える本になっています。義務教育の名のもとさまざまな葛藤に押しつぶされそうになりもがき苦しむ年頃の子どもたちに適した本ですが、大人であり親である私自身の心にも強く訴えてくるものがありました。当たり前のことを当たり前に気付かせてくれるやさしさで溢れています。臆病になった道徳心が冬眠から目覚めるように起きてきます。』―「中学生の道徳」に掲載された「読み物教材」が思春期の若者たちだけではなく、大人たちの心にも響く一例です。

読み物教材とはなにか

人間の内面で複合的に絡み合う多様な価値が描かれている

道徳の「読み物教材」とは、さまざまな価値が複合的に絡み合う人間の行為や思考を扱ったものです。読む人は、そこに登場する人間の行為や考え方に学び、批判をし、あるいは自己投影しながら考えをめぐらせていきます。

価値が複合的に絡み合ったその人間の行いに、あるひとつの道徳的価値を見い出し、スポットをあて、これを焦点化していくのが道徳の時間の役割となります。

道徳の時間は「読み物教材」が頼りなのか

道徳の時間で扱われる教材は多様化しているのが実情です。一枚の写真や一篇の詩、漫画や新聞記事をもとにした教材など、さまざまです。映像を見たりゲストティーチャーを迎えた授業などは、児童生徒の興味・関心を引き、多くの学校で実践されています。

しかし、そのような状況にあっても「読み物教材」が道徳の時間で中心的役割を果たしている傾向はかわりません。これは文字を媒介とした「読書」がもたらす効果と同じものが「読み物教材」にあるからではないでしょうか。道徳の時間は「読み物教材」が頼りなのか、と問われれば、ある意味「その通り」ということができるでしょう。

映像では主人公の顔は同じものとして児童生徒に共通して認識されます。しかし、文字を介した情報の場合、その主人公の行為や考え方を通して、読み手はそれぞれに「彼」や「彼女」を想像します。風景やその他の登場人物も、一人ひとりの心に映るものが違います。

「読み物教材」で、読み手の心情が内面から引き出されてくるのは、こういった想像の過程を通しておこる現象なのではないでしょうか。そこには自我関与があり自己内対話があり、まさに道徳的価値を焦点化し深化する上で、貴重なプロセスを構成しているといえます。

「読み物教材」の素材の良し悪し

「読み物」であれば何でもよいかといえば、それは違います。「読み物教材」にも当然「良し悪し」があります。

まず児童や生徒の心を揺さぶることができない読み物は良い教材とはいえません。また自作教材等にみられる、落とし所が見すかされる教材も悪い教材の部類でしょう。焦点化する道徳的価値に縛られた教材などが該当します。また児童や生徒の気付きを促すために助言的な記述があるのも好ましくありません。「退屈なお説教」として読み手の心が冷めてしまいます。

自分の思考や行いをその読み物に投影し、自省の機会を与えられる教材は良い教材といえます。主人公の行為や思考に真実を感じることのできる教材であれば、読み手の内面的心情を引き出すことができます。

最近では、ストーリー性のあるものが児童生徒には好評です。おもしろい、と読み手に感じてもらうことも「読み物教材」にとっては大切です。

また、新学習指導要領においては、指導方法のひとつとして「問題解決的な学習」を適切に取り入れることが示されています。「読み物教材」を用いて問題解決的な学習を取り入れた授業を展開するのであれば、その教材には①道徳的価値が実現されていない状況、②道徳的価値についての理解が不十分な状況、③道徳的価値を実現しようとするができない状況、④複数の道徳的価値のどれを優先すべきか逡巡する状況、の4つのうち、いずれかの状況に起因する道徳的な問題が描かれていることが条件となるでしょう。

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